共生社会のモデル「江東園」
共生社会のモデルとして注目
幼老複合施設に注目が集まりだしたのは最近のことですが、東京都の江東園では30年も前から高齢者と子ども、そして障がい者との交流を積極的に行っています。1987年に特別養護老人ホームや在宅介護サービス、保育園、障がい者支援事業などの施設を合わせた複合施設を建設し、日常的にふれあえる取り組みを行っています。
高齢者が自主的に行動
江東園では高齢者が保育園のカーテンを朝いちばんに開けて、園児を迎える準備をしています。ですが、これは介護士が高齢者に仕事としてお願いしていることではありません。はじめは自主的にやってくれる人にお願いしていただけなのですが、可愛い園児を見ているうちに「何かしたい」という気持ちになり、園児の出迎えだけではなく、着替えやおむつ替え、抱っこなどいろいろお手伝いするようになったそうです。
高齢者は、普段は介護される側なので受け身になることが多いのですが、ヨチヨチと歩く赤ちゃんを見て体が動きづらくても思わず手を差しのべる、といったように意識せずに心と体が能動的になることで、自然な自立支援にもなっています。
また、週末家庭で過ごした子どもたちは月曜日の登園時は落ち着きがなくなったり、泣いたりすることもあるのですが、高齢者が門で出迎えるようになってから意識の切替えができ、普段通りに過ごせるようになったそうです。
核家族化がすすむ現代では当たり前の形に
核家族がすすんでいる今、異なる世代との交流は意識しなければできません。そのため、子どもは「老いる」ことの意味を知らず、高齢者も人の目を気にしなくなったり、内に閉じこもるようになっていました。これまでの縦割りの介護や福祉では、「高齢者のみ」「子どものみ」と年代ごとに集めてケアするのが一般的でしたが、それでは不自然であると江東園が気づいたのです。
江東園では毎月特定の曜日に高齢者と子どもたちが終日一緒に過ごすオープン保育を開催したり、子どもたちが高齢者の居室を訪ねる訪問活動や年に1度のお泊り会を開催するなど、季節行事だけではなく、普段から交流できるようにしています。日常のふれあいの中で高齢者と過ごすことによって、子どもは老いることの意味を自然に学び、労わる気持ちが芽生えてきます。
ですが、異世代の交流はメリットばかりではありません。子どもと一緒に遊ぶことで高齢者が転倒してしまうリスクもありますし、病気の感染が拡大してしまう可能性もあります。「安心で安全であること」は介護や福祉に携わるものにとって大切なことですが、その面ばかりを注視していると人として大事なものを育むことはできません。「安心で安全、かつ異世代が支え合いながら生きる形」が自然になるように、社会の意識を変えることも必要です。